アホロテの絶滅危機から我々人間が目指すものを考えたい。
メキシコ在住15年目、
「メキシコの素顔を世界に!」
をモットーに、
プロのメキシコ旅行ガイド兼ドライバーをしています岩﨑コウです。
今日もメキシコから書いています~
☝☝☝アホロテ
アホロテ。
メキシコに生息する両生類です。
AxoloteまたはAjoloteと書きます。
辞書でAjoloteの和訳を調べていったら、
最後はアホロートルと出てきました。
訳になっていない・・・(笑)
「アホロテ、アホロートルって一体何なんだい」
アホロテとググる(Googleで調べる)と、
“ウーパールーパー”
“メキシコサンショウオ”
“メキシコサラマンダー”
などと出てきました。
日本ではそう呼ばれているそうです。
そこで思ったんです。
素直に
「アホロテ」
と呼べばいいのに・・・(苦笑)
呼びやすいし覚えやすいし、
そもそも元の名前だし。(笑)
アホロテって、
カエルと同じ両生類で、
サンショウオの一種なんです。
僕も子供の時に
北アルプスの登山中や、
長野県売木村に住んでいた時も、
サンショウオは見た事がありました。
メキシコには6種のアホロテが生息していると言われています。
内2種がメキシコシティとその周辺に生息しているんです。
しかしその2種は絶滅危惧種に指定されています。
生物についてお詳しい方も多いと思いますが、
両生類って、
カエルを思い浮かべて頂ければ分かりやすいです。
卵から孵化(ふか)するとオタマジャクシになりますね。
オタマジャクシは水中で過ごすので、
人間のように肺では呼吸ができなんです。
だから魚と同じように鰓(えら)が必要になります。
鰓で水中の酸素を取り込みます。
両生類は、
大人になる時に鰓が消え、
肺を持つ体に“変わる”んです。
これを「変態(へんたい)」といいます。
頭がおかしい人を同じ字でヘンタイと言ったりしますが、
意味は違います。(笑)
メキシコのアホロテがなぜ重要な生物かと言いますと、
両生類にも関わらず、
この「変態」が起こらない種だからです。
孵化するともう肺があるんです。
つまり幼生の期間が無い。
メキシコシティ周辺には、
2種類のアホロテが生息していると書きましたが、
上述の「変態」が起こらない種を、
Ambystoma mexicanum、
通称Ajolote mexicano
(アホロテ メヒカノ)
と言います。
この不思議な品種はメキシコシティ南部の、
トラヒネラ(運河を行くボート)で有名な
Xochimilco(ソチミルコ)
にしか生息していない種なのです。
しかしソチミルコの水質悪化や、
住宅地などの拡大により、
アホロテ・メヒカノが生息できる環境自体が狭まっていて、
その個体数は減少しており、
絶滅危惧種に指定されています。
これにはメソアメリカから続く伝統農法チナンパの見直しや、
アホロテの生息地域内で農薬などの化学物質を使わないなどの対策が必要になりますが、
カネがものをいうこの世の中、
現実的には難しい状況にあると言えます。
もう一つは、
学術名がAmbystoma valasciといいます。
Valasciは、
1800年代後半から1900年初頭にかけて、
メキシコ風景画を描いた画家の、
Jose Maria Velasco
(ホセ・マリア・ヴェラスコ)
の苗字から命名されています。
僕も好きな画家でして、
彼の繊細な風景画を通じて、
当時のメキシコシティ周辺や各地の様子がよくわかるのです。
今のように“観光用に”整備されてしまう前のテオティワカンも描いていて、
非常に興味深い絵画です。
自然に対する興味により
自然をつぶさに観察し、
メキシコの風景画を描いていたわけですが、
彼の興味は生物にも及びました。
☝☝☝メキシコシティ最北端から中心部方面の風景,1875年
ホセ・マリア・ヴェラスコ
☝☝☝テオティワカン,1878年
ホセ・マリア・ヴェラスコ
☝☝☝今のテオティワカン
メキシコは1821年に独立を遂げたのですが、
その後も政治的な混乱は続きます。
そんな中、
メキシコが誇れる動植物、地質学や鉱物学を
世界に発信する目的で、
Solieda Mexicana de Historia Natural
(自然の調査研究機関)が設立されました。
ヴェラスコはその一員としてアホロテの研究をしていたんです。
その研究過程で、
1874年に変態する新しいアホロテ、
Ambystoma valasciを発見したんです。
当初この新種はSiredon tigrina
と呼ばれていました。
当時、
ドイツ人などが「変態しない奇妙な両生類」
を研究するために自国の研究機関に持ち帰り、
研究していたところ、
これが「変態した」んです。
1880年に、
ドイツ人は「ソチミルコの水質が悪いために変態を起こせなかった」
と結論付けました。
これにヴェラスコは、
「動植物の研究は彼らの自然生息環境で行われなければ意味がない」
と反論します。
「研究所の人工的に操作された環境では正確な答えは得られない」
ということです。
ベラスコは、自然環境下でいくつもの観察を経て、
1874年に既にこの事を突き止めていたのです。
彼の偉大な発見から、
メキシコ盆地に生息する、
変態する種を、
Velasciと名付けたわけです。
この品種は現在メキシコ州やイダルゴ州の限られた地域にか生息していなく、
やはり絶滅危惧種に指定されています。
通称Ajolote altiplano
(アホロテ アルティプラノ)
と呼ばれています。
アルティプラノとは、
メキシコシティとその周辺一帯の地域の呼び名です。
象牙や毛皮目的で惨殺される動物も多く、
その多くも絶滅の危機に晒されています。
アホロテも多分に漏れず、
その肉を目的にした密漁や、
水質汚濁そして人間の居住地の拡大による生息域の減少により、
絶滅の危機にあります。
ここまで発達した人間の文明ですが、
一度我々人間はどこに向かって何を目指しているのか、
よく言われる経済的や技術的発展とは一体何なのか、
自然環境や文化・歴史を蔑ろにし続けた後にトレードオフとして起こりうる不の現象、
について真剣に考える必要がある時期に来ているように感じます。
ちなみにこのアホロテは、
早ければ2020年、
つまり今年には絶滅する可能性が高いと考えられています。