S様:メキシコはまだ知られざる名峰の宝庫でした!

一生の記憶に残るかけがえのない経験となりました!

マリンチェ山。ピークまで残り300m時点で体力を温存して引き返す

ご旅行の内容

ご旅行期間

2日間

移動距離

合計470km

内容とルート

イスタシワトル山4500m地点まで、マリンチェ山4100m地点までのトレッキングを二日間で行いました。

ルート:

3月8日:CDMX5時出発⇒7時イスタシワトル山入山手続き⇒8時トレッキング開始⇒13時までに下山⇒昼食など⇒マリンチェ山麓16:00~16:30
3月9日:出発6:00⇒トレッキング開始⇒下山開始11:30⇒14:30下山⇒15:30出発⇒18:30CDMX着


ご感想

メキシコはまだ知られざる名峰の宝庫だった

日本には2~3000mクラスの峰々が連ねていますが、メキシコにはちょうどそのワンランク上にあたる4~5000m級の、しかも独立峰の宝庫です。その大半は難しい登攀技術も必要なく、日本で中級者向けとされる登山コースを歩ける方でしたら、ピーク(頂上)まで至らなくても十分に楽しめます。もちろん体力的に余裕のある方は貪欲に目指してもらっても一向に構いません。

どの峰までも、首都のメキシコシティから車でわずか1~2時間の距離にあり、標高も3~4000mの駐車場までアプローチできます。メキシコの山は、実はまだ日本の登山家たちにもあまり知られていない「穴場」といっても過言ではないでしょう。

そこにメキシコで唯一の日本人公認ガイドである岩崎さんが、メキシコシティの滞在先から登山口までの送迎、複雑な入山許可の申請にも対応してくれるので、これを利用しない手はないと思います。通常これらの峰々に個人でアクセスする場合、まず駐車場までの公共の移動手段がありません。慣れないスペイン語による移動や交渉なども相まって、トレッキングする前に疲弊してしまいます。スケジュールが遅れて夜になってしまうと、治安の良くない地域も存在します。また岩崎さんにガイドをお願いすることにより、トレッキングに不要な荷物をすべて車(TOYOTA RAV4)に保管できることが、予想以上に助かります。参加人数も4人まででしたら大差ありません。むしろ割り勘すればひとりで参加するよりずっとお得になります。私も学生の頃は徹底して節約旅行にいそしんだ口ですが、中年となって経済的にも少し余裕が生まれた今、面倒なことは岩崎さんにお任せして、メキシコの山の魅力そのものを楽しもうではありませんか。

そんな私はメキシコに仕事の関係で赴任している身分。お恥ずかしい話ですが、登山は長いブランクがあり、現在はメキシコシティにあるチャプルテペク公園を毎朝ウォーキングしているだけの初心者に近い状態です。しかし健康目的の緩い運動ではだんだんと物足りなくなってくるもの。せっかくメキシコに来ているのだから、雄大な自然に一度触れておきたい。HPで探し当てた岩崎さんにメールで思いきって相談した結果、今回のガイドを引き受けてもらえることになりました。

初日はイスタシワトル山のトレッキング。行けるところまで行こうとのことで、噴煙を上げるポポカテペトル火山を横目に、ゆっくり高度を上げてゆきます。まるでタイムスリップして太古の地球を旅しているような感覚に襲われます。

はるか遠く、蜃気楼のようにメキシコシティの街並みが見えます。私たちが過ごしていた日常は、山の上から眺めると本当にちっぽけな世界です。山からのご褒美ともいうべき感覚でしょうか、トレッキングに出てみると当たり前のことが実は当たり前ではなかったり、異なる価値観に触れることができます。こういう視点は人生の大きな財産となります。都会でいつも間にか大きくなっていた自意識が次第に矯正されてゆきます。やっぱり忙しい人ほどたまに自然に還ってくる必要があると感じます。

岩崎さんは常にこちらのペースに配慮しながら先導してくださり、なるべく安易なルート選びながら歩いている様子でした。さすがにガイドだけあってメキシコの高山植物の知識も豊富で、異国の果てにいながら日本人による日本語でいろいろな珍しい花々の説明も受けられます。

荒々しいむき出しの岩山が天を突いています。その空は青を通り越して黒みがかっています。気が付くと標高は4000mを越えていました。ここまで来ると酸素は地上の60%くらいしかなくなります。呼吸をしても酸素が肺に半分しか入ってこないような状態になり、少し歩いては立ち止まることを繰り返します。身体が思うように動かず、なかなか前に進みません。結局4500mまで進んだところでこの日は引き返そうという話になり、下山を開始しました。登山者のレベルや体力、その日の体調や高山病の具合などに応じて、臨機応変に対応いただけるとのもありがたい。

1日目の晩は岩崎さんの運転する車でマリンチェ山の山麓に移動してロッジに宿泊。山中にありながら電気、ガス、水道、温水シャワー、冷蔵庫、ベッドが完備されていて非常に快適です。水や食料も調達することができます。テントやBBQが好きな方はキャンプも可能です。

翌朝6時に不要な装備をまた車に預けて、マリンチェ山のトレッキングを開始。まだ薄暗い濃い森林の中をヘッドライトを頼りにひたすら歩を進めてゆきます。昨日のイスタシワトル山はゴツゴツした岩場が多い男性的な山でしたが、本日は一転して緑豊かで女性的な印象を受けます。

「オラ、ブエノスディアス(やあ、おはよう)」

メキシコ人の登山者たちとすれ違う度に挨拶を交わしてゆきます。メキシコというと麻薬カルテル関連の凄惨な事件をイメージされる方が多いかもしれませんが、それらはアメリカとの国境に近いほんの一部エリアの出来事。都市部でさえも少し注意していればそうそうトラブルに遭遇するものではありません。大部分のメキシコ人たちもまた、私たち日本人と同じように自然や平和を愛する民族なのです。世界は常に刺激を求めていて、こうした平穏な日常というのはなかなかニュースとして取り上げられないものです。

それにしても少し驚かされたのが、他のメキシコ人の登山者たちの軽装。日本人から見ると高尾山に遠足に行くようなスニーカーとジャージといった格好で、木の枝の棒を持ち3000m以上の高地を軽々と駆け上がってゆきます。ふだんは街中でタコスでも売っていそうなお兄ちゃんやおばさんたちが飄々と。そして日本から来た装備万全のいい歳こいたおっさんが、深呼吸を繰り返しながら歩を進めてゆきます。しかしそれはある意味で仕方ないのかもしれません。メキシコの人々は先祖代々標高の高い場所で暮らしてきて、もともと高地に強い遺伝子を持った人たち多いと聞きます。そして岩崎さん。この方もメキシコシティでお会いしたときは普通の好青年に見えましたが、メキシコに20年住んでいるだけあり、高地に居ても平地と変わらない高いパフォーマンスを発揮してくれます。現在メキシコの山々にこれだけ精通していて、体力を備えた上に高所順応できている日本人ガイドは他にいないでしょう。

やっとのことで4000mの限界森林線を抜け、尾根に出たところで視界が一気に開けてきました。この日は天気が良く、メキシコ最高峰のオリサバ山(5636m)や昨日トレッキングしたイスタシワトル山が遠くに霞んで見えます。山裾から吹き上げてくる冷気を含んだ風が最高に気持ちいい。続けて4100mまで高度を上げてゆきます。このあたりから再び、呼吸をしても酸素が肺に半分しか入ってこないような状態になりました。マリンチェ山の標高は4400m。ピークまで残り300mといった時点ですが、帰りの体力も温存してまだ余裕があるうちにここで引き返すことにします。そう、登山というのは人によって登りよりも、下りのほうが辛いのです。登りは主に体力が必要で、下りは身体を支え続ける脚の筋力が必要となります。いくら岩崎さんが万能なガイドであったとしても、参加者は自力で下山できる範囲で行動しないといけません。滑落や怪我といった山の事故も、下山中のほうが圧倒的に多いのです。案の定ここにきて昨日の疲労と日ごろの運動不足がモロに出て、脚をガクガクさせながら下山の途に着いたのでありました。山麓に無事に着いた後も、岩崎さんはさらにドライバーとして車を運転してメキシコシティに向かってくれます。本当に頭が下がります。

おかげさまで今回のトレッキングは一生の記憶に残るかけがえのない経験となりました。お金の遣い方は人それぞれです。しかし最近よく考えるのですが、人は「モノ」よりも「経験」にお金に遣った方が、人生が豊かになれるような気がします。いくつになっても心が動く瞬間を大切にしたい。プライベートツアーに参加するということは、自分の人生を豊かにしてくれるお金の遣い方のひとつだと思います。いつもの日常から離れて、冒険心をくすぐるトレッキングに連れ出してくれた岩崎さんに感謝。そして屈託のない笑顔で迎えてくれたメキシコの人たちと雄大な自然に深くお礼申し上げます。

メキシコガイドの岩﨑功からのお礼

S様

このたびは、心のこもった、詳細なご感想文をお寄せいただき、誠にありがとうございました。

読み進めるうちに、あの日の澄み切った空気、遠くに見えるメキシコを代表する独立峰、そして一歩一歩足を進めながら感じた高山の静けさと厳しさが鮮明によみがえり、ガイドとしてご一緒できたことを改めて光栄に思いました。

メキシコの山々について「まだ知られざる名峰の宝庫」と表現してくださったこと、それ以上に嬉しい言葉はありません。日本では、メキシコと聞くと海や遺跡、陽気な文化を想像される方が多い一方で、「山」や「大自然」というイメージはまだまだ定着していないのが実情です。しかし実際には、ご指摘の通り4000~5000m級の独立峰がいくつもあり、しかも多くの山が首都圏から3時間内でアクセスできるという、登山好きな方々には非常に恵まれた地理的条件が整っています。

その上で「特別な登山技術がなくても挑戦できる」というご指摘にも深く共感します。イスタシワトル山やマリンチェ山のような山々は、技術的には比較的穏やかでありながら、4000m以上の高山ならではの風景や空気、達成感を味わうには申し分のない舞台です。そして、それらの魅力に気づいてくださったことに、ガイドとして何よりのやりがいを感じています。

Sさんは「登山は初心者に近い状態」と謙遜されていましたが、イスタシワトルでは標高4500m、マリンチェでも4100mまでしっかり歩かれ、その体力には驚かされました。特に高山では酸素濃度が平地の半分以下になるため、ちょっとした登りでも心拍が上がり、体が重く感じるものですが、呼吸を整えながら着実に高度を上げていかれ、無理なく安全にメキシコでの登山をお楽しみ頂けました。

「自意識が矯正される」という表現がとても印象的でした。山に入ると、普段自分たちが囚われていたものがいかに小さなことだったのかに気づかされる瞬間があります。特に都市生活では、知らず知らずのうちにプレッシャーや忙しさの中で「自分」を過剰に意識してしまうことがありますが、自然の大きさや静けさの前では、そうした鎧がすっと剥がれていくように感じられるのではないでしょうか。それは、まさに山がくれる最大の贈り物だと私も思います。

装備についてのご指摘も、まさにその通りです。日本のように「登山=装備完備」のスタイルとは異なり、メキシコではあくまでも「身近な自然」としての登山文化が根付いています。もちろん安全のためには基本的な準備は不可欠ですが、肩肘張らずに自然と向き合う姿勢もまた学ぶべき点が多いと、私自身日々感じています。

当方のサービスについて、体調や天候、高山病のリスクに応じて、柔軟に予定を調整できるという点にもご理解いただけたこと、非常にありがたく思います。高山では登頂ばかりに目を向けるのではなく、自分の身体と相談しながら、その時その瞬間の自然を受け入れる心構えが何より大切です。今回のように、ご自身の限界を見極めつつ、安全な範囲で最大限の自然体験をされたその姿勢は、まさに理想的な登山の楽しみ方でした。

マリンチェ山麓のロッジ滞在についても快適に感じていただけたようで何よりです。テント泊ももちろん魅力的ではありますが、体をしっかり休めながら2日目に備えることができる宿泊環境があるというのは、体力的な負担を軽減するうえでとても重要です。とくに中高年の方にとっては「無理なく挑戦できる環境」が、持続可能な山登りを続けるための大きな鍵になると感じています。

最後にいただいた「人はモノより経験にお金を使った方が豊かになれる気がする」というお言葉、私もまったく同感です。私たちが日常で手に入れるものの多くは、やがて形を失い、記憶からも薄れていきます。しかし旅で得た経験や、心が震えた瞬間は、歳を重ねてもずっと残り続けます。特に自然の中で感じる「非日常」は、心に深く刻まれ、人生に彩りを添えてくれます。そしてその経験を通じて、「また挑戦してみよう」という前向きなエネルギーが湧いてくるのではないでしょうか。

こうしていただいた感想は、今後新たな山、そして海外の山にに挑戦してみたいと考えている方々にとって、かけがえのない道しるべになるはずです。

もしまた別の季節に、別の山に挑戦される機会があれば、ぜひ再びご一緒できたら嬉しいです。メキシコにはまだまだ知られていない、美しく、そして個性豊かな大自然がたくさんあります。今後も安全第一で、無理なく、ご自身のペースで、メキシコの雄大な自然に会いに来てください。

改めまして、このたびは素晴らしい感想文をお寄せいただき、心より感謝申し上げます。そして、この感動を共有できたことを、心から誇りに思います。

またお会いできる日を楽しみにしております。

岩﨑 功

写真ギャラリー