今回は、メキシコの多文化社会を語るうえで欠かせない民族の一つ、「メノニタス(Menonitas)」についてお話しします。

以前、このブログではアフリカ系住民についてご紹介しましたが、実はメキシコにはドイツ・オランダ系の人々も暮らしています。

メキシコを旅したことがある方なら、つなぎ姿でチーズを売り歩く人たちを見かけたことがあるかもしれません。

彼らこそ、メキシコで「メノニタス」と呼ばれる人々です。

では、なぜドイツ・オランダ系の人々がメキシコに暮らしているのでしょうか。

そのルーツをたどってみます。

ルーツは16世紀ヨーロッパの宗教改革

メキシコとドイツ、オランダ。

歴史の授業では、この3つを結びつけて学ぶ機会はほとんどありません。

メキシコ史でヨーロッパと言えば、一般的にはスペイン、そしてフランスが中心だからです。

しかし、話は16世紀前半までさかのぼります。

ローマ・カトリック教会のあり方、とりわけ贖宥状に疑問を投げかけ、「95カ条の論題」を発表したマルティン・ルター。

1517年の宗教改革は、キリスト教をカトリックとプロテスタントに分ける大きな転換点となりました。

1517年当時、まだメキシコという国は存在していません。

スペイン人がメソアメリカへ到達する2年前であり、メシカ(アステカ)帝国が最盛期を迎えていた時代です。

日本でいえば、織田信長が登場する40〜50年ほど前。

現在国宝となっている日本の城も、安土城の石垣も、まだ存在していなかった時代です。

その後、プロテスタントからさらに枝分かれした宗派の一つが、現在のメノニタスにつながっていきます。

「メノニタス」という名前の由来

「メノニタス」という名称は、プロテスタントから分かれた際の指導者Menno Simonsに由来しています。

彼の支持者たちは「Menistas」と呼ばれ、それが現在の「Menonitas(メノニタス)」へと変化しました。

しかし彼らは、信仰や生活様式を守る中で各地から追われるようになり、移住を繰り返すことになります。

ポーランド、ロシア、そしてカナダへ。

彼らが求めていたのは、最低限の三つの自由でした。

  • 教育
  • 宗教
  • 言語

この三つを守るために、新たな土地を探し続けたのです。

カナダからメキシコへ

1874年、彼らはカナダへ到着します。

しかし1914年、第一次世界大戦が勃発。

ドイツ系であったメノニタスは敵視され、さらにカナダ国民であることから徴兵も求められました。

そこで彼らは再び移住を決意します。

1921年、駐ブラジル・メキシコ大使の仲介により、当時の大統領アルバロ・オブレゴンと交渉。

チワワ、ソノラ、ハリスコ、ドゥランゴ、ナヤリットの5州を紹介されます。

メキシコ政府は、彼らが求める教育・宗教・言語の自由を保障する代わりに、土地を1エーカーあたり8.25ドルで売却しました。

彼らが選んだのが、メキシコ北部のチワワ州です。

1922年に最初の移民が到着し、1926年までに約6,000人のメノニタスがカナダから移住しました。

現在は全国で約9万人が暮らし、そのうち約1,000人がドゥランゴ州に居住。

その他にもメキシコ各地に小さなコミュニティがあり、私自身もユカタン半島のカンペチェ州やチェトゥマル近郊で彼らを見かけたことがあります。

チワワ州で最初に移住が始まった町では、現在でも住民の約3割がメノニタスと言われています。

その他の住民はタラウマラ(ララムリ)族との混血が多く、

この地域ではドイツ、メソアメリカ、スペインという異なる文化が共存する、多民族社会が形成されています。

今も受け継がれる独自の文化

メノニタスは、移住を繰り返しながらも独自の文化を守り続けてきました。

その社会は、ある意味で非常に閉ざされています。

例えば結婚。

基本的にメノニタス同士でしか婚姻しません。

教育も一般の公立学校ではなく、独自の学校で6歳から14歳まで学びます。

そして言語。

第一言語はドイツ語の方言であり、スペイン語は比較的近年になって学校教育へ取り入れられました。

ただし近年、その伝統社会にも変化が起きています。

大きく分けると、伝統を重んじる保守派と、変化を受け入れるリベラル派。

割合は、おおよそ8対2です。

リベラル派は携帯電話やインターネットを利用し、公立学校へ通い、高校・大学へ進学していきます。

一方、保守派は従来どおりメノニタスの学校で学び、15歳頃から男性は農場や牧場、女性は家業を担います。

興味深いのは、この両者が対立しているわけではないこと。

互いの価値観を尊重しながら、同じ民族として共存しています。

そして、彼らは自らの文化を守りながらも、毎週月曜日にはメキシコ国歌をドイツ語で斉唱しています。

メキシコという国の中で、自らの文化とアイデンティティを大切にしながら暮らす人々なのです。

そんなメノニタスにも、今、新たな変化が訪れています。

その続きは…またメキシコでお話ししましょう。

おわりに

メキシコは、遺跡やタコスだけでは語り尽くせない国です。

地域ごとに異なる民族、言語、宗教、歴史を知ることで、同じ景色でも見え方が大きく変わります。

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