「古代メキシコでは、人間を神に捧げていた。」
そう聞くと、まず頭に浮かぶのは「残酷」「恐ろしい」というイメージではないでしょうか。
しかし、500年以上前のメソアメリカの人々にとって、「生贄」は単なる残虐行為ではありませんでした。
雨を願い、トウモロコシの豊作を願い、神々と人間の世界をつなぐ――。そこには、当時の人々なりの宗教観や自然観、そして社会を成り立たせるための世界観がありました。
なぜ人を神に捧げたのか。生贄はいつ、どのように行われていたのか。
現代の価値観だけでは理解しにくい「メキシコの生贄」の世界を、少し覗いてみましょう。

メシカ帝国初期のテノチティトラン、 “テンプロマジョール”の第2層で発見された半寝の像(通称チャックモル) 生贄の儀式で使われていました。
注: ガイドブックやメディアでチャックモルとして広く知られているこの像。 本来チャックモルとは別のものを指します。 解説はメキシコで。(笑)
生贄とは
今日は、 「生贄」のお話しです。
身の毛もよだつ、 言わずと知れた、 “死を捧げる”行為です。
これまでのブログでも盛んに、「生贄」という言葉が出てきました。
また、 「生贄」 の方法にもイロイロありましたね・・・心臓を取り出したり、 頭部の切断、 矢、 チチェンイッツァのようにセノーテに放り込んだり、 火であぶったり、 メシカのグラディエーター式に撲殺したり・・・
とにかく思いつく限りの方法で捕虜や奴隷、 またある時は子供を神に捧げたのでした。
一方で、「生贄」 という行為自体はメソアメリカに限った事ではなく、 世界の他の地域でも行われていました。
生贄の種類
生贄の定義は大きく分けて二つあるようです。
一つは神から人間に対して行われるもの、
二つ目へ、人間から神に捧げるもの。
メキシコでは僕が理解できる限りでは、 2の意味合いが強いですね。
ウモロコシの豊作を祈る春の行事、
トラカシペワリストゥリ月(今の3月のような月)で行われるグラディエーターだったり、
干ばつ時に行われた雨乞いの儀式だったり、
何かを得る為に神様にお供え物をするという意味合いで行われていた「生贄の儀式」が多いです。
「生贄」と言いましても、 死を伴わないものもありました。
例えばチチェンイッツァの所で出てきましたトゥラの王ケッツァルコアトゥルは、
伝説によると 「苦行」 をしていたそうです。
その苦行とは川での水浴びや、
マゲイの先端や黒曜石の刃物などで自傷するというものです。

敵対するテスカトゥリポカが老人に扮し、
マゲイのお酒プルケを4杯も飲ませて泥酔させ、
彼の思惑通りケッツァルコアトゥルは習慣だった「苦行」を怠り、
その上自身の姉と近親相姦を持ってしまい、
トゥラ市民から見放されてしまうのです。

生贄は毎日行われていた?
死を伴う「生贄の儀式」は、 日常的に行われていたわけではありません。
大きく分けて二種類の「執行日」に行われていました。
一つはメソアメリカの暦に基づいた儀式。
例えば春のトラカシペワリストゥリ(トウモロコシの豊作祈願)月や、
スペイン人による虐殺の舞台にもなった、
6月のメシカの神テスカトゥリポカとウィツィロポシュトゥリに捧げられたトスカトゥル(Toxcatl)月などです。
二つ目は記念行事のときです。
例えば新たな首長が決まった時や、
新たな宗教的建造物の建設されるとき、 雨乞い、 葬式などです。

当初テオティワカンには生贄の習慣は無かったとされていましたが、
1980年にケッツァルコアトルの神殿の地下で後ろ手に縛られた人骨が見つかりました。
足の動脈を切り、失血死に至らせる方法で殺されたと考えられています。
諸説あるものの、テオティワカンの建設が始まったとされる紀元前200年頃のものとされます。
そんなことで、 映画などの影響もあり? 四六時中頻繁に行われていたという印象さえありますが、
暦や習慣に乗っ取って、「適切に」 行われていたのでした。
人を残酷に生贄は「悪」か?
ここでは、「善悪」は論点ではありません。
メソアメリカ時代の宗教であり、習慣であり、その中の儀式だったのです。
「生贄」は500年以上前のメソアメリカに限った事ではないんです。
殺す対象は人間ではないものの、ネパールの農村では5年ごとに行われるヒンズー教の習慣で、20万頭もの動物が彼らの女神に「生贄」として殺されます。
(ご興味がある方はこちらをどうぞ・・・https://www.afpbb.com/articles/-/3257908)
何かを願う気持ち、それが現実世界で達成できないとなると、人々は非科学的な神を信じ、それが宗教となり、場合によっては、 その神の為に現実世界の「生」を殺して捧げる、 という行為「生贄」が行われるようです。
遺跡は「背景」を知ると、まったく違って見えてくる
生贄という行為だけを現代の感覚で見れば、確かに残酷です。
しかし、なぜそこまでして神に捧げたのか。
雨、トウモロコシ、太陽、暦、戦争、そして死。
一見バラバラに見えるものが、当時のメソアメリカでは一つの世界観としてつながっていました。
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