メキシコ旅行と聞いて、「塩」を思い浮かべる方はほとんどいないでしょう。
しかし実は、日本で使われている塩の多くはメキシコから輸入されており、その歴史をたどると、メソアメリカ文明の発展にも深く関わってきました。
さらに現在でも、メキシコには1000年以上前とほぼ変わらない方法で塩を作り続ける塩田が残っています。
一見すると何気ない「塩」ですが、その背景を知ると、メキシコという国の見え方が大きく変わります。
今回は、日本とメキシコをつなぐ意外な存在であり、文明を支えた重要な資源「塩」の歴史をご紹介します。旅先で実際に塩田を訪れると、この物語がさらに立体的に見えてきます。

日本で使う塩の多くは、実はメキシコ産です。
「何でいきなり塩なんだ?」
と思われた方もいらっしゃるでしょう。(苦笑)
実は、メキシコという国を深く理解する上で、「塩」は欠かせない存在なんです。
料理に使う調味料というイメージが強いですが、日本では食品として使われている塩は全体の約15%。
残り約80%は、紙・石鹸・ガラス・アルミ・消毒液の塩素など、工業製品の原料として利用されています。
そして、日本で使われる塩の自給率は約15%。
つまり、ほとんどを海外から輸入しています。
その主要な輸入先こそが、
メキシコなのです。
一度「伯方の塩」の原産国表示を見てみてください。
そこには「メキシコ」と書かれています。
実は私たちは、知らないうちにメキシコの塩に支えられているんですねぇ。
メソアメリカ文明を支えた「塩」
今回このテーマを書こうと思った理由は、
メキシコは現在だけではなく、
メソアメリカ文明の時代から「塩」が極めて重要な資源だったからです。
僕はこれまで多くのお客様をご案内していますが、
海岸から何百キロも離れた山奥で、
突然「塩田」が現れる場所があります。
皆さん決まって、
「えっ!?なにこれ!?塩!?塩田?なんでこんな山の中に塩田があるの!?」
と驚かれます。
実は私も最初は本当に驚きました。(苦笑)
山の中に何百年も続く塩田がある理由
山肌を削って段々畑のように広がる塩田。
メキシコ政府の資料を調べると、
海岸から離れた内陸部だけでも、
こうした塩田は現在・過去を合わせて約100か所近く存在します。
さらに海岸部にも約80か所。
ちなみに日本へ輸出される塩の多くは、
バハ・カリフォルニア半島西岸にある
ゲレロ・ネグロ(Guerrero Negro)
という巨大塩田から生産されています。
なぜ山の中で塩が採れるのか?

理由は地球の歴史にあります。
現在は山になっている場所も、
はるか昔は海底でした。
地殻変動によって海水が閉じ込められたまま隆起し、
水分だけが蒸発。
地下には岩塩層が形成されます。
その岩塩層に地下水が流れ込むことで、
塩水となって地上へ湧き出し、
塩田が作られるのです。
自然の力だけで何千年も続く、
とても興味深い仕組みです。
実はメキシコシティも「塩」と深い関係がある
メキシコシティは東西南を山に囲まれた半盆地です。
かつてこの場所には、
「テスココ湖」という巨大な湖がありました。
現在の歴史地区やソカロは、
その湖に浮かぶ島だったのです。
南部のソチミルコ周辺は淡水湖で、
有名なチナンパ農業が行われていました。
しかし湖全体の約3分の2は、
塩水湖でした。
つまり、
メキシコシティそのものも、
昔から塩と密接な関係を持つ都市だったのです。
メキシコでは塩は縁起が悪い?
理由ははっきりしませんが、
メキシコでも塩は少しネガティブな意味で使われることがあります。
例えば、
Estoy salado con mi jefe
「上司運がない」
La sal de la vida
「人生の厄介事」
Te echo la sal
「不幸になりますように」
など、
あまり良い意味ではありません。(苦笑)
一方で、
死者の日のオフレンダ(祭壇)には必ず塩が置かれます。
これは魂を清めるため。
日本でも、
お葬式のあと玄関で塩をまく風習がありますよね。
遠く離れた文化でも、
「塩=清め」という共通点があるのは面白いところです。
農業が始まり、塩は命を支える資源になった
紀元前2400~2300年頃、
メソアメリカでは陶器が発明され、
狩猟採集生活から、
トウモロコシや豆を中心とした農耕社会へ移行しました。
肉には塩分が含まれていますが、
植物だけでは塩分が不足します。
そのため、
人々は意識して塩を摂取する必要が生まれました。
しかし当時は大量生産ができません。
塩は貴重品となり、
社会に欠かせない資源となっていったのです。
そして、
農作物の収穫時期に合わせ、
塩も「収穫」されるようになります。
特に、
暑く雨が少ない乾季は、
塩づくりに最も適した季節でした。
「塩」は巨大なビジネスへ発展した

クラシック時代(古典期AD200~900年頃)になると、
塩は本格的に商品化されます。
陶器によって計量が可能になり、
様々な形の商品として流通。
塩の生産地を巡る争いも起こりました。
支配者は地方へ塩を年貢として納めさせ、
その形状から生産地を識別していたともいわれています。
塩は単なる調味料ではなく、
交易を生み、
都市を発展させ、
文明そのものを支えた重要な資源だったのです。
1000年以上変わらない塩づくり
僕自身、
伝統的な方法でつくられたお塩を食べていますが、
とってもマイルドな味わいです。
もちろん正式な成分分析をしたわけではありませんが、
産地によってマグネシウムやカリウムなどのミネラルバランスも大きく異なります。
19~20世紀になると工業化によって、
塩の宗教的・社会的な意味は薄れていきました。
それでも驚くことに、
メキシコには今なお、
メソアメリカ時代とほぼ同じ製法で塩を作り続ける塩田が数多く残っています。
つまり、
ここでは「歴史」が展示されているのではなく、
今も生き続けているのです。
「見る」だけでは分からない、本物のメキシコへ
こうした塩田は、一般的な観光地ではありません。
だからこそ実際に訪れると、
「なぜここに塩田があるのか」
「なぜ文明に欠かせなかったのか」
「なぜ今も同じ製法が残っているのか」
教科書だけでは分からないメキシコの奥深さを体感できます。
MCTのツアーでは、有名な遺跡だけでなく、このようなメソアメリカ文明を今に伝える場所も、お客様のご希望に合わせてご案内しています。
歴史を「見る旅行」ではなく、少しでも歴史を理解し、感じる旅をしてみませんか。
もちろん、
塩田見学・塩づくり体験・現地調査・サンプル手配も承ります~。(笑)
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